遺言による財産処分には一定の制約が設けられています。
私的財産処分の自由の原則により故人は自分の財産に対する処分の自由を有しているのでその財産をどのように処分しても誰もその行為に制約を設けることはできないはずなのですが、その一方でもし故人がその財産の全てを見ず知らずの他人やその係わっていた団体に遺贈する遺言を残してしまったら、その財産に依拠して生計を立てている妻や子は生活基盤を奪われることにもなって、いかにも不都合な事態が生じるのです。そこで民法では故人の遺志を尊重しつつ一定の相続人に対しては最低限の財産を残せるようして相続人の保護を図っているのです。この相続人の権利を遺留分といっています。
もっとも、全財産が他人に渡るような遺言であってもそのような遺言自体がそのまま無効ということではなく、あくまで相続人から権利侵害の申し立てがされることが必要になります。遺留分を侵害する処分行為(遺言・遺贈等)がなされたとしても、その処分行為は当然に無効となったり取り消されたりはしません。遺留分を有する者が、行使可能期間内に遺留分減殺請求権を行使する必要があります。
また、遺言を残す側でも将来のトラブルを回避するためは最低限の遺留分を尊重した遺言を残すように配慮すべきでしょう。
1.配偶者
2.直系卑属(被相続人の子)及びその代襲者
3.直系尊属(被相続人の父母)
尚、兄弟姉妹に遺留分は認められていません。
通常兄弟は、故人の財産に依拠して生計を立てていない等の事情が考慮されたものと思われます。
各相続人の遺留分は、次のとおりです。
1.配偶者1/4・子1/4
2.配偶者1/3・直系尊属1/6
3.配偶者と兄弟姉妹 配偶者1/2・兄弟姉妹なし
4.配偶者のみ 配偶者1/2
5.子のみ 子1/2
6.直系尊属のみ 直系尊属1/3
7.兄弟姉妹のみの場合、遺留分はありません。
(相続開始時の財産)+(贈与財産)-(債務)=(遺留分算定の基礎となる財産)
贈与財産はには次のような財産が含まれます。
① 相続開始前1年以内になされた贈与
② 贈与の当事者双方が遺留分を侵害することを知った上でなされた贈与
③ 相続人に対して特別受益として与えられた贈与
尚、相続開始時の財産のうちには、不動産の賃料や株式配当、預金利息など減殺のあった日以後の果実も財産の中に含まれます。
遺留分減殺請求権の行使は、遺留分権利者から相手方に対して意思表示をするだけで足りものとされています、これは相続放棄や遺留分の事前放棄などが裁判所に対して特別な方式による手続きが必要なケースと趣を異にしています。
ただ実務的には証拠能力を残すために、この意思表示は内容証明郵便の方法をとることが一般的です。
なお、遺留分減殺請求権には時効があり、遺留分権利者は、相続の開始があったことを知った日および減殺すべき贈与・遺贈等があったことを知った時から1年、または相続開始時から10年が経過すると、遺留分減殺請求権を行使できなくなってしまいます。
1. | 相続開始前の放棄 相続開始前でも遺留分は、放棄することができます。 この場合は、家庭裁判所において「遺留分放棄の申立て」を行い、その許可を受けることになります。相続放棄の手続きが相続開始前にはできまないことと対象的です。 |
2. | 相続開始後の放棄 相続開始後、遺留分を有する相続人は家庭裁判所の許可なく、自由に遺留分を放棄することができます。 尚、共同相続人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響はありません。 |
なお、遺留分の権利がある者が、相続欠格・相続人廃除、相続放棄により相続する権利が無くなった場合は当然遺留分を請求する権利はありませんが、これらの場合、相続欠格・廃除の場合は代襲相続人が、相続放棄の場合は次順位相続人が遺留分の権利を持つことになります。
なお、生前に遺留分の放棄があったにもかかわらず、結局故人が遺言を作成しなかった場合には、遺留分の放棄は相続放棄とはならず、遺産分割協議や相続放棄の手続きなどが必要となります。